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Julien ジュリアン

フランス映画 (2017)

セザール賞の作品賞他3部門、ヴェネツィア映画祭の銀獅子賞(監督賞)を含め、全部で受賞数23、ノミネート数32の名作。一般観客の人気度IMDbは7.5、批評家の評価度Rotten Tomatoesは何と96%。信じられないほど高い。理由は、親権をめぐる父と母の争いの中で見えてくる恐ろしい現実を、その主たる犠牲者であるジュリアンを通してリアルに描いているからであろう。映画の最初では、どちらも いけ好かない感じなのだが、それが徐々に本性を剥き出しにしていくところは、ハリウッドの怪物映画と違い、実の人間が怖さを体現しているので、観ていてより迫力を感じさせられる。映画は、2016年の夏に、フランス東部の、リヨンの北110-130キロにあるChalon-sur-SaôneとDemignyという2つの町で行われた。その当時の映画の原題は『Jusqu'à la garde(親権まで)』。それが、内容をリアルに表現し過ぎているということで、主人公のジュリアンに変更された。ただ、英語の題名は、親権を現わす英語『Custody』のまま。フランス語字幕の出来は75%(抜けが多い)。英語字幕の出来は85%なので、両方を併用した。

1年前に別居した両親の親権をめぐる争いで、判事の裁定は、父親は 隔週の週末だけ 11歳のジュリアンに会っていいというもの。その前の聴聞で、ジュリアンが父のことを「あの男」と呼んで、毛嫌いしているにも関わらず、親権は両親に認めるべきだという理想論に振り回された結果だ。そして、1回目の週末。ジュリアンは、連れて行かれた父の両親の家で、父にノートを盗み見られ、ないことになっていた母の携帯番号を見られてしまう。しかし、母は、すぐ番号を抹消してしまい、それ以外の被害には遭わずに済む。翌週、母の新しいアパートのそばのバス停にいたジュリアンとその姉は、父の実母の友人に見られてしまう。それを2回目の週末の訪問の時、父の実母から指摘されると、父は、すぐにピンとくる。ジュリアンの母が、自分に内緒で、実家からアパートに移ったと。そこで、食事中にも関わらずジュリアンを執拗に責め、それを見咎めた義父から、二度と来るなと家を追い出されると、父はジュリアンをアパートのある地区まで乗せて行き、脅してアパートの場所まで連れて行かせる。最初は、間違ったアパートに連れていったのだが、すぐにバレ、無理矢理、本当のアパートまで連れて行かせる。アパートに母はいたが、その日は、ジュリアンの姉の誕生パーティがある日だったので、母とジュリアンは出かけ、それ以上の害は受けなくて済む。しかし、父は、パーティ会場の外にたむろし、気が付いて出てきた母と口論になり、その時は、母の妹が出てきて、父を追い払う。問題は、その日の深夜に起きる。父が、猟銃を持ってアパートに侵入、ドアを開けろと叫び、ドアを蹴り、最後には、ドアに向かって発砲したのだ。ジュリアンと母は、鍵の掛かる浴室に閉じ籠り、弾が当たらないバスタブの中に身を隠す…

主演のトマ・ジョリア(Thomas Gioria)は、2003年生まれとしか分からない。撮影が2016年の夏なので、単純に引けば13歳〔映画の中での設定は11歳〕。トマ・ジョリアは、『Adoration』(2019)の方を先に紹介したが、トマが映画初出演で、大成功を収めたのは、この作品。離婚した異常な父親に絡まれる可哀想な少年を熱演し、リバーラン国際映画祭(アメリカ)の男優賞を受賞した(セザール賞の新人賞とCinEuphoria賞の助演男優賞はノミネートに終わった)。

あらすじ

両親と、それぞれの弁護士の計4人を前に、判事が、家族調停所で作成されたジュリアンの陳述書(ジュリアンは、内容が両親に知られることを通知済み)を読み上げる。因みに、ジュリアンは11歳で中学1年生という設定(フランスの義務教育制度)。「僕の両親は、1年別居しています。僕は、ママと姉と住んでいます。僕たちは、町役場のホールで姉の18歳の誕生日を祝います。僕たちは、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんと一緒ですが、父はいません。ママは、宿題を手伝ってくれませんが、ちゃんとやっています。友だちもたくさんいて、自分だけでうまくやっています」。ここから、調子が変わる。「僕は、庭で遊ぶことができません。あの男〔l'autre〕が来るのが怖いからです」(1枚目の写真)「彼を見ると、お祖父ちゃんは怒鳴り始めます。彼が来ると、僕はママのことが心配になります。彼がママに嫌がらせをするからです。彼は父ではありません。離婚して欲しいと思います。僕はママが寂しくないように、一緒にいます。ジョセフィーヌ〔姉〕も彼が嫌いですが、会わなくて済むんです」(2枚目の写真)「僕は、彼に二度と会いたくないし、判事に、毎週か隔週の週末に会いに行かせられるのも嫌です。僕は、彼に二度と会いたくない。それだけです」〔日本版DVDの訳は、「彼」ではなく「あいつ」になっているが、ここでは “il” を標準的に訳した。それは、「あいつ」にしてしまうと、最初の「あの男」以上に、強く誹謗する表現となり、「あの男」という表現を使った衝撃が薄れてしまうからだ。父もあとで、「あいつ」ではなく「あの男」の 使用を問題視するので、ここは 「彼」とすべきであろう〕。判事が、この長い陳述書を読んだ後、最初に、母側の弁護士に発言を求める。そこで言われるのは、①母は無職で失業手当は月981ユーロ〔生活苦〕、父は病院の防火責任者で月収は2200ユーロ〔裕福とは とても言えない〕。②18歳の姉は親権の対象外で、問題となるのは11歳のジュリアンで、当然、ジュリアンは父との共同親権を否定。③ジュリアンの不安の原因は父親の常態化した脅迫的行動。④離婚にあたり、共有財産からの5000ユーロの前払いと、子供1人につき月110ユーロの養育費(3枚目の写真)。次に、父側の弁護士が発言し、特に強調したのが、「法は、父と息子の絆を断ち切ることを規定していません」という点。そこで、土曜日の正午から日曜日の午後6時まで、隔週の週末、ジュリアンと会えるようにして欲しいと要求する(4枚目の写真)。判事は、5月29日に裁定を弁護士に伝えると言い、聴聞を終える。

ジュリアンの母は、祖父母の家に同居していると、別れた夫がやってきて不愉快な思いをするので、町役場に勤める妹の助けを借り、ZUP〔優先市街化区域〕にあるアパートを見に行く(1枚目の写真)。案内する女性が、「F4」と言うので、4部屋。広さは78㎡。寝室が3つで、居間があるので、日本流に言えば3LDKだ。ネットで調べると、2020年12月時点での東京23区内の3LDKの物件は、60~70㎡が半数近くを占め、次に、70~80㎡が多く、90㎡以上は1割以下。78㎡は、フランスとしては決して広くない。ジュリアンは、2番目に広い部屋に、“ここに決めた” とばかりに座り込む。姉が、「ここは、私の部屋よ。ダブルベッドを入れるから」と言うと、ジュリアンは、「彼とは、もう寝たの?」と冷やかす(2枚目の写真)〔姉には、婚約間際のような男友達がいる〕。その時、母に弁護士から電話が入る。そばに寄っていったジュリアンの顔は冴えない(3枚目の写真)〔判事が、隔週末の父の親権を認めてしまった〕

さっそく、最初の面会日、父のミニバンが、母の両親の家の前に停まる(1枚目の写真)。そして、迷惑なほど何度もクラクションを鳴らす(2枚目の写真)。それでも、誰も出て来ないので、車か降りて携帯をかける〔かけた先は、祖父母の家〕。それを取った祖母が携帯を2階まで持って来て母に渡す。母は、しばらく夫を待たせてから、携帯に出る。「ミリアム〔妻〕?」。「ええ」。「何、やってる?」。「ジュリアンは、気分が悪い」。「出て来い。話そう」。「お腹が痛いの」。「俺が、医者に連れてく。住所を教えろ」。「騒がないで」。「判事の決定に従ってるまでだ」。「アントワーヌ〔夫〕、彼、ホントに具合悪いの」。「出て来い。そしたら、話せる」。「私は、出て行かない」。「彼は、今週末、俺と一緒なんだ。もし、出て来なければ告訴してやる」。ここで、ジュリアンが、「彼、何て言ったの?」と母に訊く。母は、何も言わない。ジュリアンは、覚悟を決めてベッドから起き上がると、祖母に送られて玄関から出て行く(3枚目の写真)。

車の助手席に乗ったジュリアンは、何も言わず、父からは顔を背けている。父が 「よお、可愛い坊主」と声をかけても、表情を厳しくしただけで、返事もしないし、顔の向きも変えない。父が、もう一度、呼びかけると、ようやく父の方を見て、父に抱き締められる。抱擁を終えた父は、「病気なのか? お前のママが そう言ってたぞ。薬は持って来たのか?」と訊くが、ジュリアンは、無口で無視の態度に戻る(1枚目の写真)。「何か言えよ」。返事はない。あきらめた父は、シートベルトをかけると、車を出す。次のシーンは、父の両親の家での食事。ただ、祖父と祖母のどちらが、父の本当の親なのか分からない〔恐らく祖母〕。祖父は、ジュリアンに 「大きくなったな」と言い〔会うのは、1年ぶり〕、祖母は 「食べないのね」と言って、皿を引き上げる。祖父:「明日は、狩りにいかんか?」。父は、「今度にしよう。彼は体調が悪い」と申し出を断る(2枚目の写真)。食後、祖母が、次の土曜に、ブランディーヌ〔どういう関係かは不明〕が 父に結婚式に出て欲しいと言っていると話す。それに対し、父は、1000キロも走れないと断るが、それを聞いたジュリアンは、「週末を交換できるよ」と言い出す(3枚目の写真)〔意味不明。ジュリアンと父が会うのは、隔週の週末なので、来週の週末、父は空いている。だから、交換する意味がない〕。祖母は、その案に賛成する。

しかし、父はTVを見ていて何も反応がないので、ジュリアンは、「パパ、僕たち、週末を交換すればいいんだ。僕も、次の土曜〔le samedi d'après〕に、ジョセフィーヌの誕生パーティに出たいし」と、声をかける〔隔週は、一体どうなっているのだろう? 今週会ったのだから、ジュリアンは “次の土曜” は空いている〕。しかし、父は、その言葉を100%無視する(1枚目の写真)。次に、この陰険な人物がやったことは、ジュリアンが持って来たバッグの中を漁って、資料を見つけること。そして、ノートを取り出す(2枚目の写真、矢印)。そのトップの父兄欄の、父の部分は、削り取られてしまっていたが(3枚目の写真、左の矢印)、それよりも、彼にとって重要だったのは、妻の携帯の電話番号が書いてあったこと(右の矢印)。実に陰険な人物だ。

翌 日曜の帰りの車の中で、父は本性を現わす。途中で車を停め、「1時間ある。1時間遅れて迎えに行ったからな」と言うと、ゆっくりとタバコを吸い始める(1枚目の写真)。そして、おもむろに、「俺を、『あの男』と呼んだのは誰だ?」と、知っていながら嫌味で訊く。「僕だよ」。「母さんも、俺を そう呼ぶのか?」。「ううん、僕だけ」。「姉さんもか?」。もう質問には答えたので、ジュリアンは嫌味な質問には答えない。「誕生パーティに行きたいのか? なぜ、母さんは、お前を使って週末の変更を頼ませるんだ? 自分で頼めないのか? 普通の母親なら、週末の変更は、俺と直接話し合うもんだ。なぜ、彼女は、俺に電話しない?」。ここで、ジュリアンの母は、携帯がないということを口実に電話を避けてきたので、ジュリアンは、それに忠実に、「携帯、持ってないから」と答える。父は、連絡ノートを見せろと要求する。ノートに母の携帯の番号が書いてあることを知っているジュリアンは、「その番号、もう通じないよ」と庇おうとするが、父は、ノートを出すよう強要し、ノートを受け取ると、携帯を取り出して、書いてあった番号にかける。すると、番号は生きていて、呼び出し音が聞こえる。そして、母の声で 「もしもし」。父は、「『あの男』だ」と言う(3枚目の写真、矢印は携帯、ジュリアンの顔に注目)。「ジュリアンは?」。「俺と一緒だ。彼は、15日後の〔dans 15 jours〕パーティに出られるよう、週末を変えるよう頼んだ」〔結局、前の台詞の「次の土曜」は間違いだった〕。妻:「私の番号、どこで知ったの?」。夫:「質問に答えろ」。「ジュリアンも出られたらいいわね」。「なぜ、お前の方から、直接俺に頼まない? 難しいことじゃないだろ?」。それ聞いて、妻は仕方なく、「週末を変えてくれる?」と頼む。「『変えてもらえる』だろ?」。「変えてもらえる?」。「今から、話に行く」。そこで電話を切ると、父は車をだして、母の両親の家に向かう。実に、ネチネチと、嫌らしい男だ。1作前の『Adoration』のグロリアと同じ、統合失調症の気(け)があるのではないだろうか?

ジュリアンは、バッグを “人質” に残し、リュックだけ背負って祖父母の家に入って行く。迎えてくれたのは、祖母(1枚目の写真)。すぐ後ろにいた母に、ジュリアンは、責任を取って嘘を付く。「週末は変えれないって」。「彼が、そう言ったの?」。「仕事があるから」。それを聞いた姉は、「クソが〔Putain〕!」と罵り、祖父は、「あいつ、何でまだ帰らないんだ? わしが、追っ払ってきてやろうか?」 と、怒りを剥き出しにする。ジュリアンは、「バッグを忘れたから、取ってくる」と言って、車まで戻ると、別の嘘を付く。「ママは、出かけたって(2枚目の写真)。さっそく、父が携帯で電話すると、電話番号は、ブロックされていた。「彼女は、普通じゃないな」。「ママは、いないよ」。「どこだ?」。「バッグ返してくれる?」。「お前が、姉さんの誕生パーティに行けないのは彼女のせいだから、感謝でもしとけ」。そう言うと、車内のバッグを乱暴にジュリアンに投げつける。そして、車を急発進させて埃を巻き上げ、去って行った(3枚目の写真、矢印はバッグ)。

場面は、いきなり、バス停に変わり、3つあるイスの1つにジュリアンが座り、その左に姉が立って、携帯メールを見ている(1枚目の写真)〔最初は、意味の分からないシーンだが、非常に重要な意味がある〕。そこにバスが来て、全員が乗り込む。結構混んでいるので、2人とも立つことになるが、ジュリアンが真っ先にしたことは、自分の携帯にあった母の電話番号登録を抹消すること(2枚目の写真) 

そして、日曜日に解放されてから13日後の土曜。父が、車のドアを開け、「お前の母さんを呼んでくれ」と言うが(1枚目の写真)、ジュリアンは、無視して車に乗る。父は、如何にも優しそうなフリを装って、「ジュリアン、今夜のパーティに連れて行ってやる。お前の母さんに会うのは、何時に連れて行けばいいか訊くためだ」。そんなことで騙されるようなジュリアンではない。「いないよ」。「いるとも」。「いないってば!」。父は、車に乗り込むと、「いないんなら、どこにいる?」と、しつこく訊く。「ジュリアン、どこだ?」。さらに、もう一度。「どこだ?」。ジュリアンは、頭に来て、「クソッタレ〔Dans ton cul〕」と言い返す(2枚目の写真)。それを聞いた父は、しばらくジュリアン睨みつけると、諦めてエンジンをかける。

車が、父の両親の家に着くと、ジュリアンはさっさと降りる。父が、荷物を降ろすのに、「手伝ってくれんか?」と頼むと、「バッグを置いてくる」と、家に向かう。そこに、父の祖父がやって来て、ジュリアンにキスし、大量の荷物を車から降ろしている父を見て、「いつまでいる気だ?」と、半分迷惑そうに訊く。「アパートの鍵が手に入るまで」。そのあと、「昼食はウサギだ」と言うが、その時、主語が “Ta mère〔お前さんの母さん〕” となっているので、やはり、祖父は、この乱暴な父の本当の父親ではなく、妻の息子というだけ。だから、あまり歓迎していない。そして、昼食のシーン。実の母が、「アパートは、どこなの?」と息子に訊く。「新設の大学病院から10分のところだ、小さなバルコニーとジュリアンの部屋もある」〔映画の中では、一度も出てこない〕。「大学病院のオープンはいつ?」。「話したろ。9月だ」〔それまでは、この家に居候〕。そのあと、祖母が、出席した結婚式でレティシアという 太り過ぎた未婚の女性と会ったと言ったあと、そのレティシアが、ジュリアンとジョセフィーヌを見たと話す(1枚目の写真)〔ジュリアンは、ドキっとして、思わず はた迷惑でおしゃべりな祖母を見る〕。父は、さっそく、レティシアの住所を訊く。それが、ZUP。ジュリアン達の新しいアパートがある場所。2つ前の節で、ジュリアンとジョセフィーヌがバスを待っていたバス停のある場所だ。この姿を、レティシアが見たに違いない。父は、ジュリアンに、「そんなトコで、何してた?」と訊く。祖母は、「レティシアを覚えてる?」と、ジュリアンにくどくど訊く。ジュリアンは、首を横に振って否定する。そして、父には、「僕らじゃない」と、ZUPにいたこと自体を否定する。祖母は、ジュリアンが否定したのに、「バスに乗ったって」っと、言わなくてもいいのに、ダメ押しする〔バカ息子の母もバカ〕。父は、「ZUPで、何してた?」と、再度追及。父:「何してたんだ?」。祖母:「どうだっていいじゃない」。父:「そこで、何してた?」。ジュリアンは、最初、「僕らじゃない」と打ち消したのに、「ジョセフィーヌの友だちに会いに」と肯定してしまう。「分からんな。バスに乗ったんだろ?」。「帰るトコだった」。「どこへ?」。その、あまりにくどい質問責めに、見かねた祖父が 「アントワーヌ、止めろ」と制止する。しかし、父は、止めずに、「どこへ?」と続ける。ジュリアン:「学校へ」。祖父:「アントワーヌ、止めろ」。父→祖父:「うるさい」。父→ジュリアン:「学校に行く前に、その友だちの家とやらに行ったのか? どうなんだ、答えろ」。ここで、堪忍袋の緒が切れた祖父が、「アントワーヌ、止めろ!!」と怒鳴る。父は、「うるさい!!」と再度怒鳴ると、食卓を叩いて立ち上がり(2枚目の写真)、倒れたワインの瓶から葡萄酒が飛び散る。祖父は、「お前は、何でいつも こうなんだ! この大バカ者〔Pauvre con〕! 何もかも台無しにして!」(3枚目の写真)「せっかく楽しくやっとっても、いつだって、こうなっちまう! 子供たちが、お前に会いたくならんのも当然だ!」と、激しく批判する。父は、ジュリアンの腕をつかむと家から出て行く。祖父は、「ここは わしの家だ。二度とウチには入れん!!」と怒鳴る。

父は、ジュリアンの腕をつかんだまま、車に向かう(1枚目の写真)。そして、助手席に、突き飛ばすように放り込む。そして、すぐに車を出すと、「俺が、バカだとでも? お前たちの新居はZUPか?」と、訊く。「違う」。父は、車をZUPの正面に停めると、ジュリアンに、「お前、母親と同じくらい嘘つきになったな。だが、バカさ加減はちっとも変らん。俺が話してる時は、こっちを見ろ」と言い、ジュリアンが見ようともしないと、顎をつかんで、「そこは、あいつの彼氏のアパートか?」と訊く(2枚目の写真)。父が手を放しても、ジュリアンは、何も言わず、父の方を見ようともしない。そこで、父は、「俺はお前の父さんだ! お前たちがどこに住んでるか、知る権利がある!!」と、ハンドルを叩いて怒鳴り、次には、ジュリアンのヘッドレストをボクシングのように叩き、「俺が話してる時は、俺を見ろ! 見るんだ!!」と叫ぶ(3枚目の写真)〔児童虐待以外の何物でもない〕。「どこだ?」。

怖くなったジュリアンは、涙を流しながら、「まっすぐ」と言う。その後も、真っ直ぐや、右、左をくり返して車を誘導する。「何階に住んでる?」。「2階」〔日本流に言えば3階のこと。フランスの建物の “1階” は、rez de chaussée(直訳は 道路すれすれ)〕。「彼氏のアパートか?」。「彼氏なんかいない」。そして、「そこだよ」と教える(1枚目の写真)。車は、アパートの玄関が見える位置で停まり、父は、鍵を要求する。ジュリアンが動かないのを見ると、足元に置いてあったバッグを乱暴に取り上げ、中から鍵を取り出し、「来い」と命じる。ただし、逃げられないように、バッグは車に残すよう指示。結果がどうなるか分かっているので、ジュリアンは玄関から離れて見ている(2枚目の写真)。父が、鍵を玄関脇のパネルに当てると、「Accès refusé〔アクセス拒否〕」の音声が流れ、即座にジュリアンが逃げ出す。彼は、間違った場所を教えたのだ。父は、すぐにジュリアンを追いかける(3枚目の写真)。

しかし、太っているので追い付けないことが分かると、即座に追うのを止めて引き返す。それに気付いたジュリアンも走るのを止め、去っていく父を追うように 車の方に向かって歩いて行く(1枚目の写真)〔鍵もバッグも取られたまま〕。ロクデナシの父は、車のドアを開け、鍵をちらつかせ、「来い。連れて帰ってやる〔嘘〕」と呼びかける(2枚目の写真、矢印は鍵束)。車に戻ったジュリアンは、「鍵を返して」と頼むが(3枚目の写真)、ロクデナシは知らん顔。

車は、祖父母の家になんか行かず、先日、ジュリアンと兄がバスを待っていたバス停の前に、直角に停車(1枚目の写真)。そして、エンジンを切る。ジュリアンは、絶望のあまり なすすべもない(2枚目の写真)。ロクデナシ:「レティシアが言ってたろ。ここで、お前たち2人を見たって」。ジュリアン:「ママを殴らないで」。ロクデナシは、それには答えず、「見つけ出してやる」と言う。あきらめたジュリアンは、車から降りる。今度は、逃げないよう、ロクデナシがジュリアンの首をつかんで案内させる(3枚目の写真)。「何階だ?」。「8階」。そして、2人はエレベーターで8階に向かう(4枚目の写真)。

エレベーターを下り、ドアを鍵で開けると、母が迎えに出てきたので、ジュリアンは、“ごめんなさい” というような顔で母を見る(1枚目の写真)。ロクデナシは、「邪魔かな?」と言い、返事も聞かずに勝手に中に入って来て、ドアを閉める。そして、そこがあたかも自分のアパートのように、全部の部屋を見て回る。母が、「何の用?」と訊いても、「俺の子供たちが、住んでるトコを見に来た」と、勝手な言い分を並べる。母は、娘のパーティがあるので、「もう、出かけないと」と言う。ロクデナシは、キッチンに行くと、水をコップ1杯飲み、急に泣き始める〔もちろん、フリをしているだけ〕。そして、「俺は変わった」〔恐らく、悪い方に〕と言いながら、嘘の涙を流し、泣き声を出しながら、妻に抱き着く。冷静な妻は、恐らく、こうした策略には慣れているので、抱かれても、およそ無関心・無感動(2枚目の写真)。気持ちの悪い男が、早く出て行ってくれないかとしか考えていない。こんな、道化芝居に付き合ってはいられないので、「もう行かないと」と言って止めさせる。ロクデナシは、ジュリアンに、「明日、迎えに来る」と、姉の誕生パーティへの出席を許し、明日11時に迎えに来ると言い、それまでの鬼のような態度ではなく、頭にキスまでして別れを告げる(3枚目の写真)。

ロクデナシが、母の義父の家の前に車を停めると、義父が、家の中に置いてあったロクデナシの持ち物を全部 門の所に放り出している。ロクデナシ:「これ何だ?」。義父:「ここでは わしは法律だ。二度とウチには入れん」。息子が来たのを見て 出てきた実母は、「ジュリアンはどこ?」と訊く。「母親と一緒だ。明日、引き取りに行く」。「今夜は、一緒に食べてく?」〔この女性も、夫の決断を無視している。この母にして、この子ありなのか?〕。「俺は、全く歓迎されとらん」。そう言いながら、ミニバンの後部に、義父が山積みにした荷物をどんどん入れて行く。すべて入れ終わって、運転席に座ったロクデナシ(2枚目の写真)。まだ、アパートが決まっていまいので、彼には行き先がない。そして、車の後ろは、ガラクタの山。これで、ロクデナシなりに正気を保たせていた糸が切れてしまう。

ここからが、映画の一番つまらない、はっきり言って、完全に不要の部分。内容は、ジョセフィーヌの誕生パーティ。8分も、何の意味もないパーティ・シーンが続き、ジュリアンが一瞬だけ顔を見せる(1枚目の写真)。そして、さらに 無駄な1分が流れ、ようやく、会場の外にロクデナシがいると知った妻が、娘のパーティを放っておいて、1人で外に出て来る。その妻に対し、ロクデナシは、さっきの涙とは正反対に、「なぜ、そんな目で俺を見る? お前にとって、俺は何だ? 近づくこともせん。電話番号は変える」と、詰問する。妻:「昔の話を、また蒸し返すつもり?」。「当然だ。子供が2人いるんだからな。お前が急に消えて、俺はすごく傷付いた。知ってるだろ」。「あなたは病気よ」。「誰に向かって言ってる! 病気なのは、お前の方だろ!!」。そこに、“妹の友人”〔妻の新しい彼氏かもしれないが、結局、最後まで分からない〕が近づいてきて、口論は一旦中断するが、今度は、その男が誰なのかで、ロクデナシはより暴力的になる。そして、妻を車の窓に押し付け、両手で首を絞め付けているところに、“妹” が駆け付け、ロクデナシを追い払ってくれる。そのあと、さらに、3分間、無意味な場面が続き、1分もあれば十分なシーンに、15分もかけて、ようやくパーティのシーンが終わる。ヴェネツィア映画祭で金ではなく銀獅子賞に終わったのは、恐らく、この無駄な15分のせいであろう 。

夜、ZUPのアパートでジュリアンと母が寝ていると、アパートの建物の玄関で押すことのできる “呼び出しのベル” が鳴り出す。ベルは、ひっきりなしに、嫌味に、鳴り響き続ける。母は、どこかの装置を調整し、音を最小にするが、それでもある程度は聞こえるので、ジュリアンは1人で寝るのを嫌がり、母のベッドに一緒に入る(1枚目の写真)。そのうちに音が止み、2人は、「あの男」が諦めて去ったのかとホッとする。すると、しばらくして、今度は、エレベーターが上がってくる音が聞こえる。その音が、途中で止まらず昇り続けることに危機感を覚えた2人は ベッドから飛び起き、ドアまで行く(2枚目の写真)〔真っ暗なので、増感した〕。母が覗き穴から見ると、エレベーターの扉から出てきたのは、“あいつ” だった(3枚目の写真、矢印)。

2人は、ドアから離れる。すぐに、ドアがノックされ、「ミリアム」と呼ぶ声が聞こえる。誰も返事しないと、ノックが激しく連打される。そして、「話は、まだ終わっとらん!」の言葉の後は、もっと重いノック音が続く。音は、どんどん大きく、激しくなる。そして、「開けろ!」という怒鳴り声。そこで、カメラが廊下側に切り替わり、ドアを足で蹴る姿が映る(1枚目の写真)。すると、反対側の部屋のドアが僅かに開き、年配の女性が、顔を覗かせる。彼女は、冷静に、かつ、賢く、すぐに警察に通報する(2枚目の写真)。警察の指令本部の担当者は、アパートの住所として、「Saint-Dumont, 9 rue Winston Churchill.」と言うが、これは架空の地名。この指令の言葉で、このロクデナシが猟銃を手に持っていることが分かる。一方、2人は、ドアが開かないように、内側から必死に押さえている(3枚目の写真)。

ここで、最初の銃が発射され、押さえていたドアのすぐ横に穴が開いたので、2人は急いでドアから離れ、通路を曲がった所に逃げる。その時になって、ようやく母は、手に持っていた携帯で、警察に通報する(1枚目の写真)。電話を受けたのは、先ほどと同じ担当者。母が、発砲されたと叫ぶと、重大事件と認識し、訊いた住所が先ほどと同じだったので、警察が急行中だと伝え、発砲した人物を訊く。「夫よ」。「1人ですか?」。「息子と一緒」。ここで2発目の発砲。「奥さん冷静に。鍵のかかる部屋はありますか?」。「ええ」。「息子さんと一緒にそこに閉じ籠って。救援が向かっています」。2人は、浴室に逃げ込んで、ロックする。「今、どこですか?」。「浴室の中」。「ロックしましたか?」。「ええ」。「ドアの前に、何か置けますか?」。「ええ」。2人は、部屋にあった小さな家具をドアの前に置く(2枚目の写真)。ここで、3発目の発砲(3枚目の写真)。そして、蹴る。

ドアは、体当たりで開き、猟銃を手にしたロクデナシは部屋の中に入る(1枚目の写真)。「彼、入ったわ」。「奥さん、よく聞いて下さい。バスタブはありますか?」。「ええ」。「息子さんと一緒に、中に隠れて下さい」。2人は、バスタブの底に貼りつくように並んで横になる(2枚目の写真)。「電話を離さないように。あなた一人ではありません。奥さん、私が一緒にいます。ご心配なく。もうすぐ、警察が来ます」。ロクデナシは、浴室のロックされたドアを揺すり、「ミリアム」と呼ぶ。返事がなく、ロックされているので、銃に弾を込め始める。その時、廊下の両側から警官が忍び寄る。そして、3人掛りでロクデナシを取り押さえる(3枚目の写真)。

ロクデナシが連行されて行く。「奥さん、終わりました。聞こえますか?」。「終わったの?」。「終わりました」。「私はこれで終わります。あとは、警官が対応します」(1枚目の写真)。母は、電話どころではなく、ジュリアンを抱いたまま、泣き続ける。その時、浴室のドアの外から、婦警の声がする。「奥さん? 聞こえますか?」。母は泣いていて、なかなか対応できない。それでも、何度目かの呼びかけで、ようやくバスタブから立ち上がると、2人掛りで家具をどけ、ドアを開ける。最初に通報した向かいのドアの女性がドアを開けて覗いてみると、ジュリアンと母が見える。覗かれていることを母が指摘すると、婦警がドアを閉めるが、その時、3発の銃弾の大きな穴がはっきり映る(3枚目の写真)。ドアが完全に閉まったところで、映画は終わる。

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